名古屋高等裁判所金沢支部 昭和29年(う)72号 判決
怖せしめ、因て右伝造より金弐千円を喝取したものでなく、同人等に対し、被告人の関係する雑誌へ、広告を掲載して呉れるよう請求し、其の承諾を得た上、広告料として金弐千円の支払を受けたものであり、しかも、該金員を受領した者は被告人でなく、同行した雑誌社の者である。」旨主張するけれども、桂田又作並に桂田伝造に対する司法警察員作成各供述調書の記載、桂田又作に対する検察官作成第一回供述調書の記載に依れば、(一)被告人は原判示の頃原判示の場所に於て、桂田又作に対し、自己の関係する雑誌に、広告を掲載する様要求し、右桂田又作に於て、これを円曲に拒絶した上、被告人に対し「ポケットマネーとして取つておいてくれ。」と言い乍ら、百円紙幣十枚を手渡そうとした際、「こんなものいらぬ。火にくべてしまえ。」等と怒号し、該紙幣を引裂いて投付け、同人並に其の傍に居てこの様子を目撃していた同人の父伝造をして、若し被告人の要求に応じなければ、如何なる危害を加えるかも知れない旨感得怖するに至らしめたこと、(二)桂田伝造は桂田又作と同様、被告人の関係する雑誌に、広告を掲載する意思がなかつたにも拘らず、被告人の言動に怖するの余り、其の要求を容れ、広告料として金弐千円を被告人に其の場で交付したこと、(三)該金員を桂田伝吉より受領した者は被告人自身であり、当時雑誌社の者は同行していなかつたこと、等の諸事実を認めるに足り、右諸事実を綜合すれば、被告人は、桂田又作並に伝造に対し、被告人の要求に応じなければ、如何なる危害を加えるかも知れない気勢を示して、同人等を怖せしめ、右伝造をして、本来債務を負担すべき何等の理由なきに拘らず、怖の余り債務負担の意思表示を為すに至らしめ、該意思表示に基いて発生した債務の履行として、即時金員の交付を受けたものであることが明白である。思うに、仮令、雑誌に広告を掲載すべき目的をもつて、財物の交付を受けた場合であつても、荀も、人に脅迫を加え、怖の念を生ぜしめた結果、財物の交付を受けたものである以上、其の財物に対し、反対給付をなすべきことを約したと否とによらず、また、反対給付を為すの真意があつたと否とによらず、該行為は、すなわち、恐喝罪を構成すべく、その反面、両者間の合意が民法上一種の契約として、有効に成立したとしても、斯る事情は、毫も恐喝罪の成立を妨げるものでないと解すべきである。そうして見れば、被告人の敍上の所為は、既に存在する債務の履行を求めるため、威嚇的な言辞を用いた場合と其の趣きを異にし、刊法第二百四十九条に所謂人を恐喝して財物の交付を為さしめたものに該当すること勿論であるから、この点に関する論旨もまたその理由がない。